インドの経済成長率は、エネルギー価格の引き上げや、インフレを警戒した中央銀行の金利引き上げ、米国の金融危機が深刻化する中での急激な資本流出などを受けて、顕著にあったと言えるだろう。
各国の政策当局者の間からも、「デカップリング論」を否定するコメントが出てきている。
例えば2008〜9月1日、米国のクロズナーFRB理事がアルゼンチンを訪問して講演した際の発言だ。
クロズナー氏のコメントの趣旨は、先進国経済が悪化する中でも新興諸国が高成長を維持するとした「デカップリング論」が誤りであることはいまや明らかである。
減速している。
また、原油・天然ガスの価格高騰で潤ってきたロシアでも、製造業の景況感指数が、好況・不況の分かれ目である印を大きく下回るようになった。
ブラジルについても、世界経済全体が悪化している流れに加え、政策金利が旧%台まで引き上げられたことを考え合わせると、今後、景気の減速感が強まってくる可能性が高い。
IMFは2008年2月上旬、世界経済の成長率が09年は+2.2%にとどまるだろうという予測を発表し、川月時点の予測だった+3.0%を下方修正した。
世界成長率の+3%割れは、一般に「世界景気後退」を意味するとされている。
こうして「デカップリング論」は否定された。
すでにグローバリゼーションが進展し、企業が国境を越えた水平分業体制を構築した結果、相互のつながりはより密接になっている。
しかも、そうしたつながりが実体経済面だけでなく、金融面でも強固になっている。
そういったことを考えると、デカップリング論というコンセプト自体に、そもそも無理があり、貿易取引と金融取引という2つの側面で世界経済が密接に結びついている中で、米国の景気や金融情勢の悪化が新興諸国の経済や株式市場を圧迫する度合いは強まってきたというものである。
筆者の考えもまったく同じである。
日米の経済関係に的を絞って言うと、確かに日本の輸出が米国に直接的に依存する度合いは一昔前よりも低下している。
だが、中国などアジア諸国を経由して最終製品が米国に向かう迂回輸出的な部分は存在するし、米国経済の冷え込みによってそれらアジア諸国の経済が減速し、内需が弱まれば、日本の輸出には悪影響を及ぼす。
さらに、米国の景気悪化を受けてFRBが利下げに動き、為替がドル安円高になれば、やはり日本企業の輸出収益には打撃となる。
そういったことを考え合わせると、米国経済の影響力には、引き続き非常に大きなものがあると言える。
「米国経済は2007年阻月に景気後退局面に陥った」という判定がなされた。
筆者も早い段階からそのように判断していた。
その根拠は、シカゴ地区連邦準備銀行が公表している「全米活動指数(CF7AI)」の落ち込みや、改定値で前期比年率▲0.5%と34半期ぶりにマイナス成長になった2008年7-9月期の実質GDP(国内総生産)など各種米経済指標の動き、判定機関7BER(全米経済研究所)で20年6月まで所長を務めたフェルドシュタイン氏の「米国経済はすでにリセッション(景気後退)入りしており、今回は深刻なものになる可能性がある」といった厳しい発言内容などであった。
日本経済についても同様だ。
鉱工業生産が2008年に入ってから34半期連続で前期比マイナスになっていること、景気動向指数の基調判断が「悪化」に下方修正されたことなどから、「W年2月頃が景気の山で、その翌月から日本経済は後退局面入りした」というのが、筆者を含むエコノミストたちの共通認識になっている。
米国経済は2008年、ポールソン財務長官が「3つの逆風」と形容した悪材料の連鎖、すなわち、1)住宅バブル崩壊、2)サブプライムローン問題(クレジットバブル崩壊)、3)原油価格高騰に見舞われた。
ただし、原油価格は20年7月2日に史上最高値を更新した後に急反落し、同年2月にはバレル200ドル割れの水準まで下げた。
このバブル崩壊は、米国経済にとって数少ない20報である(「原油バブル」の生成と崩壊について興味がある方は、前述の拙著「虚構のインフレ」をご参照いただきたい)。
しかし、米国ひいては世界の景気悪化の発端となった米国の住宅市場の状況は、芳しくない。
住宅の販売在庫はなお過剰であり、住宅の価格は下げ止まっていない。
信用不安は、収まるどころかむしろ一段と強まり、2008〜9月には、ついに米国で大手証券・生保・銀行の経営危機が相次いで発生した。
それは欧州にも波及し、「大恐慌以来の危機」という見方が世界的に広がった。
実体経済の悪化と信用不安(およびそれに起因する金融機関の貸し出し姿勢のタイト化)との間で、「負のキャッチボール」とも呼ぶべき相互作用が起きており、米国の景気回復時期はさっぱり見えてこない。
何が株価をメルトダウンさせたのか。
そうした中で、なお悪いことに、米国の経済政策には手詰まり感が漂っている。
連続利下げと為替ドル安容認による景気テコ入れ策は、原油高・穀物高という副作用の拡大に直面して、2008年の夏にいったん休止を余儀なくされた。
「経済政策の複雑な方程式を解くカギは公的資金の積極活用にある」と筆者は20年春から主張し続けていたが、ブッシュ政権の動きは後手に回った。
そのツケが回ってきたのが、先に少し触れた「大恐慌以来」と言われる同年秋の金融危機である。
2008〜9月、経営危機に陥った米住宅金融公社(GSE)2社、ファニーメイとフレディマックに対して、ブッシュ政権は2000億ドルの公的資金注入枠を設定した。
事態解決に向けた前向きな一歩ではある。
だが、当面の注入額が枠全体の1%に当たる別億ドルにとどまるなど、積極的ではなく、消極的な公的資金活用であった。
その後も証券・生保・銀行などの金融危機が相次いだ。
ブッシュ政権は9月下旬になって、そうした危機の連鎖的な発生に背中を押される形で、遅まきながら公的資金による金融機関からの不良資産買い取りを7000億ドル規模で行うことを決断し、議会に金融安定化法案の早期可決を要請した。
しかし、大統領選挙と同時に行われる上下両院議員選挙が接近していたため、税金投入に対する米国民世論の根強い反発を背景に、共和党議員の反対票が多くなり、法案は下院でいったん否決された。
これによって、株式市場は大きく動揺する。
ニューョークダウエ業株25種平均は、前日比▲777ドルという史上最大の下げ幅を記録することになった。
その後、金融安定化法案は再修正協議を経て可決され、公的資本注入にも同法を活用できるという拡大解釈を、ブッシュ大統領も採用するに至った。
ただし、議会の要求を受けてさまざまな付加条項がついた金融安定化法は、金融機関の側にとっては、使い勝手の悪いものになってしまった。
そのため、政策としての実効性は低下し、不信感や疑心暗鬼を強めた市場では、資産を現金化する防衛行動に拍車がかかり、ニューョークダウが8000ドルを、日経平均株価が7000円を一時割り込むなど、「メルトダウン」的な株価急落につながった。
こうして、「言葉」だけでなく、現実の「行動」、さらには「実効性の確認」が求められる中、世界的な規模で金融市場の動揺が続くことになった。
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